大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)204号 決定 1961年12月28日

抗告人 桜井恒徳

補助参加人 日本微量元素工業株式会社

相手方 泉化学工業有限会社

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件不動産引渡命令の申立を却下する。

本件異議申立および抗告の費用はすべて相手方の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨は主文第一、二項と同旨であり、その理由とするところは、本件不動産(甘木市大字屋永字西原四三一〇番地家屋番号屋永第二三四番一、木造瓦葺平屋建倉庫一棟建坪五七坪二、木造瓦葺平屋建事務所一棟建坪三三坪中建坪四坪を除く残建坪約二九坪)については、本件競売申立債権者株式会社西日本相互銀行のため抵当権設定登記がなされた以前である昭和三一年一二月二日、抗告人は当時の所有者である日本微量元素工業株式会社との間に賃貸借契約を締結し、右賃借権にもとずき本件不動産を占有し、その後本件不動産の所有権が桜井満雄に移転すると同時に同人において賃貸人としての地位を承継し、現在に及ぶものである。よつて原決定は不当で相手方の本件不動産引渡命令の申立は理由がない、というにある。抗告人補助参加人が参加の理由とするところは、参加人は従前から本件不動産の所有者桜井満雄との間に賃貸借契約を締結し、抗告人をして参加人の工場を管理させるため本件不動産を社宅として居住させているから、本件不動産の占有を維持するため本参加に及ぶ、というにある。

よつて検討するに、一件記録を調査すれば、本件不動産は原裁判所昭和三四年(ケ)第四〇号不動産競売事件において貝島常雄が競落し同人のため所有権取得登記がなされたが、その後本件相手方たる泉化学工業有限会社が右貝島より本件不動産を譲り受けその旨の所有権移転登記を経たこと、そして右譲受人たる相手方の申立にもとずき原裁判所は昭和三六年九月六日抗告人外一名を執行の相手方として本件不動産引渡命令を発したこと、以上の事実を認めることができる。

ところで、不動産の競売においては、競落代金を完納し不動産の所有権を取得した競落人は当然には競落不動産の占有を取得しないので、右占有の取得を欲する競落人に対し競落不動産の占有を取得させるため、不動産引渡命令はこの競落人の申立により競売手続に附随して競売裁判所が発するところの競売終了の方法たる裁判である。したがつて不動産引渡命令は競売手続の過程において競売法上競落人に付与せられた権利にもとずき発せられるものであるから、競売裁判所に対し競落不動産の引渡を求めうる者は、競落代金の全額を支払つた競落人及びこれと法律上同視すべきその一般承継人に限るのであつて、競売手続外において、競落人との契約によつて競落不動産の所有権を譲り受けた特定承継人の如きは不動産引渡命令を申立てうる資格がないと解しなければならない。

本件について言えば、本件不動産引渡命令の申立人である相手方は競落人の特定承継人たることは前認定のように明らかであるから、相手方の本件不動産引渡命令の申立は不適法で、これを却下すべきである。したがつて抗告人が競落人に対抗しうべき賃借権を有するか否かについて検討するまでもなく、右の点を看過して本件不動産引渡命令を発した原決定は不当で取消をまぬがれない。

よつて抗告は結局理由があるので、費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 川井立夫 判事 秦亘 判事 高石博良)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例